母が退院した。
病棟のロビーで車椅子に乗せられまともに喋れず、見送った母だったが
今日は自分の足で歩いてロビーに戻ってきた。少しだけ白髪が増えていた。
約1週間ぶりの再会で母は私の顔を見るなり「とんでもなく不味いぞここの病院食」
と大きく囁きエレベーターに乗った。完全回復していた。
地元のデパートにある小洒落た軽食屋で昼食を食べた。
母が頼んだ1200円の明太子パスタは、麺が汁びちゃ明太子が固形になっていた。
少し食べてみたが是非レシピを教えていただきたいほどに不味かった。
食べ物の悪口を言うと食べ物に罰されるのか。たまたまなのか。
母はまた文句を言っていた。
真面目だが小言が多く、すぐに文句を言う優しい母にまた会うことができた。
来たこともない軽食屋で向かい合わせに座る母と自分。
その机も椅子も壁紙も初めて見るもの。そこに初めて座る母。初めて見る母。
初めて会う母なのに、ここは我が家のダイニングテーブルだった。
たった数日の長い孤独からここに帰ってくることができた気がした。
迎えるはずの今日は、久しぶりの帰宅だった。
家につき部屋を見渡す。
久しぶりの猫たちとの再会で喜ぶ母の声を聴きながら、久しぶりの日常に感謝した。
母よ、おかえり。そして、ただいまでござる。